Book In Life 迷子の本棚

読書で心を癒しましょう。テーマにあった本や映画の紹介と、その本や映画を通じて考えたことをアレコレ書いています。本に出てくるお料理の再現にも挑戦しています。

「悪意」はどこで生まれ育つのか

凶悪犯罪、痛ましい事件が起こると、なんて悪い奴がいるのだろうと思います。犯人が捕まると、周りの人たちは、まさかそんな人には見えなかったと言います。

悪い奴が悪いことをすると考えがちだけれど、悪い奴に生まれつく人はおらず、ごく普通の人が悪いことに走ってしまう瞬間、悪い奴に変わってしまう瞬間があります。 

きょうは、悪意がどこで生まれ育つのかを考えます。

 

七尾与史さんの『偶然屋』

就職先が決まらず崖っぷちの里美は、電信柱に貼られた怪しい求人に飛びつき、「偶然屋」のアクシデントディレクターになります。

社長の油炭の「人々が運命だと信じていることの多くは他人に仕組まれている」という説にしたがい、男女の出会いや別れなど、偶然の演出に奮闘していくうちに、通り魔事件を始めとする世間を騒がせた事件を仕組み、引き起こしている悪意の存在に気づきます。。。 

偶然屋 (小学館文庫)

偶然屋 (小学館文庫)

 

里美たちの宿敵となる男は、ルワンダ大虐殺は壮大な心理実験だったと言って、大虐殺を再現しようとしています。

人間はちょっとしたきっかけを与えてやれば、いとも簡単に冷酷で残虐な悪魔になるんです。 

この男が仕組んだことから、善良なごく普通の人の中に悪意が生まれ育つ条件がみえてきます。

理不尽な格差による憎悪の蓄積 

それにしても恐ろしいのは人間の憎悪よ。それに取り憑かれると人々は理性を失って感情のコントロールが利かなくなる。

度重なる挫折と絶望 

やがてその怒りや失望は社会に向いていく。そして疲弊して消耗した精神は破綻を迎え、とんでもない衝動に走ってしまう

集団から排除される恐怖 

我々一人一人は悲しいほどに弱い存在だ。一人ではどうやっても生きていけない。だから集団から排除されることを恐れて、無意識のうちにそれを回避しようとする、その集団がどんなに理不尽で不条理であったとしてもだ。

虐げられた人の憎悪や絶望は、やがて社会全般に対する悪意に変わります。また、孤立する不安が善良な普通の人を虐げる人に変えます。

 

村山由佳さんの『風は西から』

千秋は、大手居酒屋チェーンの店長を務めていた恋人の健介を過労自死で失います。健介は、カリスマ社長に心酔して就職したのでしたが、その実態は従業員に過酷な犠牲を強いるブラック企業だったのです。

千秋と健介の両親は、健介の死は健介が弱かったからで会社に落ち度はないと主張する会社に対して、健介の名誉を守り、彼の死を無駄にしないために闘います。 

風は西から

風は西から

 

千秋と健介の両親をサポートする弁護士は、苦労や我慢を美しき自己犠牲のように考える社長のカリスマ性が強すぎたために、誰ひとりとして反対意見を出すことができず、ブラック企業への道を走った原因だと言います。

健介が店長を務める店の売上が予算に達しなかったために、役員会議に呼び出されて吊るし上げられる場面があります。悪意が生まれ育つ条件がそろった瞬間だと感じました。

健介が虐げられる側であることは言うまでもなく、一方、役員たちは慢心したカリスマ社長の色に染まった組織から排除されないために、積極的に健介を吊るし上げているのです。そして、健介の絶望は、やがて彼自身の命を絶つという行動につながっていきます。

悪意は、ごく普通の人の心で芽を出し根を張り、大きくなっていきます。気をつけましょう。誰からも虐げられないように。そして誰をも虐げないように。

 

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ここまで読んでくださって、ありがとうございました。